キルギス視察報告

カリタスキルギスについての「情報収集」「新規案件の可能性を探る」ことを目的に、2017年7月23日〜29日まで視察を実施しました。

 

キルギスのカトリック情報

キルギスでは、1969年に正式なカトリック教会が登録されました。中央アジア地域で初めての教会だったとのことです。80年代以来、イエズス会が国内の宣教を担当しています。かつては活動的だった約3千人のドイツ系カトリックの人々の多くは移住して国を離れ、カトリック人口はどんどん減少していきました。現在は、使徒座代理区で国内に3小教区(ビシュケク、タラス、オッシュ)があり、カトリック司祭は5人(全てイエズス会)。その他、フランシスコ会のシスターが活動しています。現在、カトリック信徒は約500人で、国内人口約600万人(2016統計)の0.008%。プロテスタント系キリスト教信徒は約1万人で、カトリックとの連携活動も積極に行われています。 

 

カリタスキルギスについて

カリタスキルギスは、2015年よりカリタスアジアのメンバーとなった、誕生して間もないカリタスです。

特に南部地域では、カトリック系NGOに対する抑圧がまだまだ大きいのが現状で、NGOのよりよい活動のためには、国の法整備も必要です。 

現在は、「Meerim Nuru」(Public Cultural-Charity Fundという人道・文化活動基金)という組織名で、カトリック教会慈善活動団体として政府にナショナルNGO登録され、2012年より活動しています。今後カリタスキルギスになる前身団体ですが、全部で4名のとても小さな組織で、ヤネス・ミハイリッチ神父(責任者)、カルスキ・レミグス神父(ナショナルディレクター)、そして南北にディレクターが一人ずつ配置されています。 

 

活動地別情報

北部:ビシュケク、チュイ地域

人口は約937,400人(2015年統計)で、うち約2割が欧州系の人々。コミュニケーションとして主要な言語はロシア語。外からの文化が入り、若年層にとっての文化継承が難しい点も社会的側面での課題。経済社会的側面では、雇用不足や近代的生活への憧れから、移住労働希望者(移住先は、ロシア、カザフスタン、トルコ)が多い。 

カリタスの活動は、ビシュケク6コミュニティ、チュイ 5コミュニティを対象としている。ビシュケクの都市人口は高いが、チュイ地区の地方と市街地人口比は約5:1。 

活動 

  • 障がいを持った人々を対象とした活動:リハビリテーション、同伴家族の心のケア 
  • 教育:高校生対象の大学受験準備補習授業、天文学クラブ推進と野外活動、PCクラス 
  • 麻薬・アルコール依存症のリハビリテーション支援 
  • 孤児支援 
  • 移住労働帰還者の社会再統合支援 

 

南部:ジャララバード(ウズベキスタン国境) 

人口12万人(キルギス系、ウズベク系混合地域)、80%がイスラム教徒、残りはロシア正教。カトリックは約100~150人(ドイツ人、ポーランド人、ウクライナ人、ロシア人)。住民の大多数は農業で生計を立てている。毎年イスラムの影響が強まり、約500人の南部出身キルギス人がISISの兵士としてリクルートされていることも深刻な問題。 

2010年に起きたキルギス系とウズベク系住民間の民族衝突で、約40万人の避難民が発生したため、緊急支援および復旧支援(住居提供など)をカリタス(米国)がサポートしていた経緯がある。 

活動 

  • 障がいを持った人々を対象とした活動:リハビリキャンプ、同伴家族の心のケア、車いす供給、文化イベント 
  • 精神疾患者を対象とした医療支援 
  • 教育支援:高校生対象の大学受験準備補習授業、天文学クラブ推進と野外活動 
  • 英語コース(2010~15年)、PCコース(2014~15年) 
  • 生活保護費供給支援 
  • 食事供給活動 
  • 孤児支援 
  • オランダの団体との連携による移住労働帰還者の社会再統合支援、各種公的書類(ID査証など)を持っていない移住者に対しての書類入手サポート。

 

視察したプロジェクト

麻薬・アルコール中毒者のためのリハビリテーション(家具作り、養鶏)

カリタス米国(CRS)が初動支援としてハード面を支援し、その後はプロテスタントの牧師を中心に、3つの施設をベースとして、社会復帰に向けた活動が続いています。家具や鶏肉、卵の収益は活動費となります。ケースワークを通じて、現在もカトリックと多少連携しています。

 

カラコル孤児院

CRSが立ち上げ支援としてハード面を支援、現在はプロテスタント系の現地慈善団体が活動しています。現在、7歳から17歳までの約30人の孤児が入所。孤児を選ぶのは政府主導で、施設側は送られてきた孤児を預かることができるのみ。また、制度により17歳を超えると退所しなければならないため、元の家庭や親戚のところへ戻った時の環境次第で、リスクと直面していく可能性があることが課題の一つです。彼らの一部は、キリスト教系団体の活動に関わることができていますが、全員ではないのが現状です。カトリック教会も連携しながらこの課題解決に向けて取り組んでいます。

 

イシクルキャンプセンター ユース教育活動

カリタスキルギスが団体として力を入れている活動の一つ。北部、南部の活動拠点からつながった人材や団体を通じて、「障がいを持つ人々のためのリハビリキャンプ(*1)」や「ユース天文学キャンプ(*2)」などを実施し、文化の違いや国籍を越えてつながっていく出会いの場づくりを進めています。

(*1)障がいを持つ人々のためのリハビリキャンプ:全国各地から参加。同伴者向け心のケアプログラムも導入されている。

(*2)ユース天文学キャンプ:高校教員を対象として天文学ワークショップを実施し、天文学クラブ活動を促進している。夏休みには、積極的な生徒を集め、同センターでキャンプを実施。同センターは緯度的にも天文学に適した地域。活動を通じて宗教的なことを話すことは許されていないが、神話を紹介することは可能。実施に際して、天文学専門家およびキャンプカウンセラーは海外からのボランティア。プログラムではチームワークを通じた「分かち合いの心」を体験型で学び、最後に参加者の創造性を活かしたスキット(寸劇)を披露し合う。ワークキャンプの直接費は各団体からの支援。この調整業務はカリタスが担当している。

 

なお、今回は夏休み期間中だったため視察はできませんでしたが、同カリタスは「より多くの若者に高等教育の機会を広げていく」ための活動として、教育プロジェクトも実施しています。