We are Caritas No.22

We are Caritas No.22(2021年7月号)ができました。
ご希望のかた(無料)は、事務局までお知らせ下さい。

巻頭言

THE LAUDATO SI’ GOALS

教皇フランシスコは、2015年に「ともに暮らす家を大切に」という副題が付けられた回勅、『ラウダート・シ』を発表しました。教皇はこの回勅で、環境問題と人間のいのちを危機にさらす社会問題は密接につながっており、神と、自然と、他者との関係を見直していかなければならないと訴えています。このことは「総合的なエコロジー」と「エコロジカルな回心」という二つのキーワードで表され、全世界の教会がこれに取り組んできました。
去る5月25日、教皇フランシスコはラウダート・シ・アクションプラットフォームの設立を発表しました。これは、今後7年間にわたり、様々な共同体が総合的なエコロジーの精神に基づき、完全に持続可能な世界を実現していくために、特に「家族と個人」「小教区と教区」「教育機関」「医療機関」「信徒グループや市民団体」「経済セクター」「修道会」の7つのグループの人々に、ラウダート・シ・ゴールと呼ばれる七つの目標に取り組むよう呼びかけるものです。その七つの目標とは、「地球の叫びへの応答」「貧しい人々の叫びへの応答」「エコロジカルな経済」「持続可能なライフスタイルの採用」「エコロジー教育」「エコロジカルな霊性」「共同体としての取り組みと参加型の行動」です。これら七つのタイトルから明らかなように、この目標はいわゆる環境問題を解決していくための活動というよりも、先に紹介した神と、自然と、他者との関係を全体的な視点から受け止め、作り直していく取り組みです。日本語にはなっていませんが、以下のURLに公式サイトが立ち上げられましたのでご覧ください。
https://laudatosiactionplatform.org/
カリタスジャパンは教皇の呼びかけに応え、より一層全体的な視野を持って活動を進めていきます。七つの目標の視点から自分の生活を振り返り、次の世代に残していきたい世界を、希望のうちにともに造って参りましょう。皆様のご協力をお願いいたします。 成井大介(カリタスジャパン担当司教)

地球の叫び、貧しい人々の叫びに私たちはどうこたえるか?
“Response to the Cry of the Earth” “Response to the Cry of the Poor”

「地球の叫びへの応答」「貧しい人々の叫びへの応答」というラウダート・シ・ゴールの姿勢は、カリタスジャパンの支援活動の指針です。私たちの日頃のくらしの中から生まれる環境汚染や地球温暖化は、干ばつ、洪水などの大災害を招き、地球の叫び(地球環境の危機)となって表れます。そのような地球環境の危機は、真っ先に貧しい人々を直撃し、あらゆる叫びとなって、私たちの社会そのものを脅かし(社会の危機)、一人ひとりの人間の尊厳を踏みにじるような事象をも生みだします。

本頁では、昨年から世界を一変させた新型コロナ感染症禍におけるカリタスの活動を紹介します。感染症もまた、真っ先に、日ごろから脆弱なくらしを強いられている人々のいのちを脅かしているのです。

=日本では=

女性 -CRY・叫び- 「彼女は私だ」

コロナによる影響が女性に集中的に現れていることは世界で共通しており、女性不況(she-cession)や隠れたパンデミック(shadow pandemic)と言われています。日本でもコロナによる影響で職を失った人は飲食・サービス業で働く非正規女性に多く、65万人にも達しています。社会を支える看護、介護、小売などエッセンシャルワーカーの多くは女性であり、感染の危機に晒されながら懸命に働いているにもかかわらず、働きに見合う対価が支払われていません。またステイホームによる家庭内暴力の増加や未成年者の望まない妊娠、少女への影響が懸念されており、2020年夏以降、女性の自殺率が急増(前年比15.4%増)しています。
昨年末、コロナ禍で販売の仕事を失い、ホームレス状態になった女性が東京・渋谷で殺害される事件が起こり、「彼女は私だ」と多くの女性たちが声を上げました。女性への雇用差別や“イエ”を出たら瞬く間に貧困に転落する困難は以前から存在しています。私たちはコロナ禍で顕(あらわ)になった現実に立ち向かうとともに、構造的なジェンダー不平等にも目を向けていく必要があるでしょう。               飯島裕子(カリタスジャパン委員、ノンフィクションライター)

女性 -応答・RESPONSE-

カリタスジャパンは、生活困窮に陥ったひとり親家庭への食料支援、DVや性暴力に関する相談事業、シェルター運営など、コロナ禍でさらに弱い立場におかれた女性たちに寄り添い今日を生きぬくための支援を続けています。新型コロナウイルス感染症が世界の女性のくらし(健康、経済、安全、社会保障に至るまで)に影響を及ぼしていますが、社会構造そのもののジェンダー格差が大きい日本では、その影響がより深刻に顕在化しているのです。

 

子ども -CRY・叫び- コロナ禍だから、今、子どもたちに居場所を!

経験したことのない閉塞感が長期化し、子どもたちには特に精神的な追い込み・負担と未知なる先行きへの不安が、女性たちには特に不安定雇用から来る休業・失業と増加した家事育児の負担が、これまでは自分で処理できていたストレスを抱え込み続けている母親が、増加しています。家庭が子どもや母親にとって必ずしも安全な場所ではなくなり、その上、学校や保育所が休みとなったり、乳幼児健診や児童相談所の家庭訪問の中止が相次いだりした影響が長引き、子育て家庭の孤立が進んでいます。親子が、とりわけ子どもたちが、日本の社会で取り残されている状況がコロナ禍で顕在化されました。

2020年度自殺者数(前年度比)
小学生14人(+6人)、中学生146人(+34人)、高校生339人(+60人全員女子)
10歳代の自殺者数:小中高生を含めて 777人(+188人)
20歳代の自殺者数: 2521人(+404人)

誰一人取り残さない社会は、一人の子どもの抱える問題が社会全体の課題となって初めて目指せるものです。私たち大人にできることは、「生きてて楽しいよ」って思えるいろんな居場所を用意すること・・・教会もそうあればいいと思います。  荘保共子(カリタスジャパン委員、認定NPO法人こどもの里)

子ども -応答・RESPONSE-

カリタスジャパンは、子どもたちが安心して遊び過ごせる居場所づくりや学習支援活動、経済状況が厳しい家庭の子どもたちへの食事提供などを支援しています。新型コロナ感染症による影響は、新しい生活様式への適応、学習への不安、この状態がいつ終わるかわからない閉塞感など、子どもたちの心と身体に大きな負担を与えています※が、私たちは子どもたちの成長といのちを守るための「つながり」や「ふれあい」を社会に拡げていきます。※小中高生の72%にストレス反応や症状、15%以上の子どもにうつ症状(2020年~2021年国立成育医療研究センター調べ)

 

移民・難民 -CRY・叫び- 難民と地域をつなぐ「おとしより食堂」

昨年4月、コロナによる緊急事態宣言が初めて出た時、私たちはシナピスに集う難民たちに当座の現金を手渡して事務所を閉鎖しました。5月の大型連休明けに扉と窓を開放すると、続々と難民たちが戻ってきました。
たった一ヶ月で老け込んだ人、直近の数日はご飯に塩をふって子に与えた母親、社会的距離そっちのけでハグする若者。皆、耐えがたい孤独に眠れぬ日々を過ごしていたのでした。残念ながら社会は引き続き5月末まで止まりましたから、私たちも再び皆に現金を渡したところ、受け取りを躊躇(ためら)う人が何人もいたのでした。援助金を手渡す時には「奉仕活動への感謝として」という形にしなければ、人の尊厳を傷つけるのだと痛感しました。
「お年寄り食堂」はそんな背景から生まれたのです。難民たちが地域の高齢者をもてなすお食事処。食堂は全て難民主体で運営され、おのおの自慢の祖国料理をふるまいます。大阪にお越しの際にはぜひお立ち寄り下さい。ワンコインカンパもよろしく!  ビスカルド篤子(カリタスジャパン委員、大阪大司教区社会活動センターシナピス)

移民・難民 -応答・RESPONSE-

カリタスジャパンは、言語や在留資格の壁によって公的支援につながりにくい外国人への食糧や生活物資の支援、医療相談、住まいの提供など、移民・難民のいのちと尊厳を守るための活動を支援しています。コロナ禍では、有期雇用で働く外国人が真っ先に雇い止めにされ、借金を背負って来日した技能実習生が雇用先の業績不振を理由に解雇されるなど、平時から社会の中で弱い立場に置かれた移民・難民のくらしがますます追い込まれているのです。

 

若者 -CRY・叫び- 「助けて」と言えない若者たち

このコロナ禍で、一人で思いや悩みを抱え込み、普段にもまして孤立感を深め、「自分なんかいてもしかたない」「消えてなくなりたい」「生まれてこなければよかった」と追い込まれている若者たちが増えています。
オンライン授業の実施や部活動の自粛などで他者との対面の関わりが少ない日々。就職活動の内定取り消しや失業、アルバイト収入が失われ、生活費、学費、奨学金などを賄う見通しが立たなくなる、家計が生活保護基準を下回る状況になってしまったが、大学を辞めなければ生活保護を申請できないという不合理など、コロナ禍では精神的、経済的な不安や、それを相談できない孤立感、閉塞感が若者たちを襲います。
若者は「他者との相互作用を通じて自己を形成していくもの」*と言われています。このような若者たちに向き合い、彼らの抱える孤立感や絶望感に、わたしたちはどのように寄り添うことができるでしょうか。*スイスの青少年福祉機関スタッフのことば

若者 -応答・RESPONSE-

カリタスジャパンは、若年層を対象にした相談事業や居場所づくりを通して、若者たちのいのちに寄り添い、未来につなぐための支援を実施しています。 虐待や貧困、親との死別などによって、家庭という基盤を持てない子どもたちは、児童養護施設などで過ごし、18歳に達する、または中学、高校を中退した時点で自立や自活を余儀なくされます。さまざまな事情を背負っている若者にとって、社会的に自立していくことは、大きな困難を伴うのです。

 =世界では=

紛争-叫びと応答・CRY&RESPONSE-[イラク] 紛争下の取り組み

2003年のアメリカによるイラク攻撃以降、度重なる内紛や過激派の市民虐殺によって、イラク社会は荒廃し、人々の心には消せない傷が残っています。今年3月、教皇フランシスコは、教皇として初めてイラクを訪れ「暴力と過激主義に終結」を呼びかけ「あなたがたは皆兄弟です」と述べました。カリタスジャパンはカリタスイラクと協働し、紛争被害者の生活支援や心のケア支援を継続的に行っています。

地球温暖化-叫びと応答・CRY&RESPONSE-[バングラデシュ]増加する豪雨災害

昨年バングラデシュに巨大サイクロンが直撃し、多大な被害をもたらしました。被災した人は260万人を超え、5万6千棟の家屋が倒壊、30人余りがなくなりました。また、3万2千ヘクタールの農地がダメージを受け、1万4千頭もの家畜が死んだといわれています。こうした猛烈な豪雨は近年急増し、その被害規模も大きくなっています。カリタスジャパンは国際カリタスからの緊急要請を受け、各国の災害後の緊急支援を行っています。

移民・難民-叫びと応答・CRY&RESPONSE-[ネパール]出稼ぎに頼らずに生きる

ネパール国内では職業に就けず、出稼ぎを強いられている貧困層の人々が、隣国インドに出稼ぎに出ています。しかし、コロナ禍によって失業し、帰国を余儀なくされました。カリタスネパールでは、病を抱えて帰国した人々のケア、出稼ぎに頼らずとも就業できるような生活向上のための職業訓練、出稼ぎ等斡旋業者とのトラブルを回避するための講習会などを実施し、皆が健康に、生活の基盤を築いていける支援を行っています。

教育-叫びと応答・CRY&RESPONSE-[パキスタン]未来づくりの種まき

パキスタン第3の都市ファイザラバードでは、コロナ禍での親の失業などにより、大学や専門学校に通えなくなった学生たちに奨学金の支援を行っています。現地スタッフのアニールさんによると、この奨学金で少なくとも7割の学生が卒業できるそうです。高等教育は将来の国を支える人材育成のために、また明るい未来づくりの種を蒔き、多くの人の希望の光を生み出すために必要な支援です。